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2018/10/30

bar bossa林さんの連載小説『タオル越しの、あの人 vol.1』

bar bossa林さんの連載小説『タオル越しの、あの人 vol.1』

東京・奥渋谷に佇むbar bossa。店主の林伸次さんは、カウンター越しにたくさんのお客さまの人生を見てきました。

泣いたり、安心したり、汗をかいたり、眠ったり…生きているといろんな瞬間が訪れます。ちょっと目を向けてほしいのが、どの場面にもひっそりと、柔らかいタオルがあるということ。タオルは大切な瞬間、あなたの傍らにいるんです。

そんな『タオル越しの、あの人』の物語を、林さんが書き下ろします。今回は、アメリカ人と日本人のハーフ、マリのお話。

 

*****

 

「日本は、あまり英語は通じないからね」ってママが言ってたのは本当だった。

さっきのお店なんて、「英語のメニューはありますか?」って日本語で聞いたのに、店員さんが私の顔を見て、「ウドン・イズ・ジャパニーズ・ヌードル。ベリー・デリシャス、プリーズ・トライ」と答えたときは驚いてしまった。

私が「あのー、私、日本語しゃべれますよ」って伝えたとたん、「あ、そうなんですね。いま、外国人向けサービス英語っていうのを勉強中で、チャンスだって思って英語で話しかけちゃいました」なんて言うから、ふたりで笑った。

だからママは「日本語は、話せるほうが絶対に良いから。いつかマリの役に立つときがくるから」ってしつこく言ってたんだね。

ああ、でも、ママ、「文字もがんばって覚えなさい」って言ってほしかったなあ。いや、そんなことも言ってたような気もする。たしか私が、「え?日本語ってアルファベットが2種類あるの?チャイニーズ文字もたくさんあるし、チャイニーズ文字で読み方が違うときもあるの?ちょっとそれは無理」ってママに言い返した覚えも…。私もう20歳なのに、これから日本の文字、覚えられるかな。

 

***

 

さてと、町田のおばあちゃんに電話しなきゃ。

おばあちゃん、ママのお葬式で会って以来だ。あのときは私ずっと泣きっぱなしで、おばあちゃんとはあまり喋れなかったな。

「もしもし、おばあちゃん?マリです。さっき新宿でごはん食べて、いまから小田急線に乗ります。たぶん、13時には町田に着きます。はい、では駅の改札で」

町田に着くと、おばあちゃんが私に気づいて手を振っているのが見えた。70歳のはずなんだけど、ずいぶんと若く見える。アジア人が幼く見えるのはわかっているつもりだけど、それにしてもおばあちゃんは若い。

おじいちゃんはずっと前に亡くなってしまって、おばあちゃんは一人暮らしだ。家に向かう途中、スーパーマーケットで買い物をすませた。今日から毎日、私の料理の腕前を披露しようと思っている。

夕ごはんのときにおばあちゃんが、「マリは日本料理を作るのが上手ね。アメリカで日本料理を紹介する仕事とかできるんじゃないの?」と言ってくれた。

私は「それなんだけど、おばあちゃん」と話し始めた。

「もしかしてママから詳しく聞いてるかもしれないけど、私、アメリカではそんなに楽しい青春時代は送ってこなかったの。特にいじめられたってワケじゃないんだけど、あのアメリカ特有の明るいキャンパスライフにとけこめなくて、あまり学校にも行けなくて…。

ママが気晴らしに、たまに“日米交流会”みたいなイベントに連れてってくれて、そこでお寿司を食べたり、和服を着たり、盆踊りを踊ったりもしたんだけど、なんだか全然ピンとこなくて。まわりのアメリカ人たちは『素晴らしい文化だ』とかって言ってくれるし、ママもいろいろと説明してくれたんだけど、私は日本の文化は正直、あんまりわかってないし、『盆踊り楽しい』なんていうのも思えない…。

私、アメリカ人にもなれないし、日本人にもなれないし、自分が将来やりたいことも見つからないし、ずっと悩んでいたの。

そして、ママが病気になって入院して。そんなとき、おばあちゃんが日本から送ってくれた荷物のなかに、すごく柔らかくて気持ち良いタオルが入ってたじゃない。

そんなタオル、いままでまったく知らなくて、ママが『それ、イマバリタオルっていうんだよ』って教えてくれて、私、初めて日本のプロダクツに興味を持ったんだ。

『日本にこういうものって、ほかにもあるかな』って聞いたら、ママは『もちろん。日本人は手先が器用だから、いろんなのがあるわよ』って。それで、もっと勉強したくなって日本に来たってわけ。

さっき飛行機のなかで、ママが亡くなる前に書いてくれた手紙を読んだの」。

 

***

 

マリへ

マリがやっと、興味を持てる何かを見つけてくれて良かったです。ハーフのあなたは、アメリカ人にも日本人にもなれないと悩んでいたみたいだけど…人間って、違う文化を持って、違う言葉を話す人と出会うと、身構えてしまったり、怖がってしまったりすることあるじゃない?

そんなときは『実際に手に取って触ってみること』が一番大切なの。一緒に話をして、心に触れて、一緒に同じお釜のご飯を食べて同じおいしさを味わって、あるいは私とパパみたいに恋に落ちて…そうやって、本当に触ってみることが、違う文化の良さを学べるチャンスなの。

たぶん、マリも日本でいろんな良いものに出合い、触れると思う。アメリカにも日本にも、良いものも良くないものもあるよね。それをあなたは全部触って感じてみて。日本の人たちの心にも触れてみて。ママも天国でマリのこと、見守ってるからね。

 

***

 

「…手紙を読んで、なんだか日本での生活が、もっと楽しみになってきたの。さて、おばあちゃん、どうやってあのイマバリタオルを好きになったのか、その話から教えて」。

これが3年前のことで、おばあちゃんと私が作ったWebサイトはアメリカで大ヒットした。日本の文化や料理を紹介して、日本の良いものを販売するサイト。おばあちゃんの、お料理の動画も人気コンテンツだ。

ママ、もう何万人ものアメリカ人が日本のイマバリタオルを使ってるよ。

林伸次さん

bar bossaバーテンダー

林伸次さん

1969年徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷にbar bossaをオープンする。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSをオープン。選曲CD、CD ライナー執筆多数。『カフェ&レストラン』(旭屋出版)、『cakes』で、連載中。著書『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか』(DU BOOKS)、『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)。韓国人ジノンさんとのブログ
林さんのTwitter(@bar_bossa )。

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