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2018/12/26

bar bossa林さんの連載小説『タオル越しの、あの人 vol.3』

bar bossa林さんの連載小説『タオル越しの、あの人 vol.3』

東京・奥渋谷に佇むbar bossa。店主の林伸次さんは、カウンター越しにたくさんのお客さまの人生を見てきました。

泣いたり、安心したり、汗をかいたり、眠ったり…生きているといろんな瞬間が訪れます。ちょっと目を向けてほしいのが、どの場面にもひっそりと、柔らかいタオルがあるということ。タオルは大切な瞬間、あなたの傍らにいるんです。

そんな『タオル越しの、あの人』の物語を、林さんが書き下ろします。今回は、タオルを通じて甘い恋が蘇った男女のお話。

 

*****

 

―佐々木敏夫の話―

僕は小学6年生で、同じクラスの斉藤麻里さんのことが大好きだ。斉藤さんの笑った顔は本当にかわいくて、あの笑顔を見るたび僕の心は張り裂けそうになる。

でもいま、ちょっと困ったことになっている…。

僕のお母さんは斉藤さんのお母さんと仲良しで、よくふたりでランチに行ったり買い物に行ったりしている。困ったと言ったのは、最近、ふたりがそれぞれの子どものために、ペアのフェイスタオルを買ってきてくれたのだ!

もちろん、あの可愛い斉藤さんと「ペアのタオル」なんてうれしくて、うれしくてしょうがないのだけど、もしうっかりクラスの男子たちにバレたら、あいつら、大騒ぎするのがわかっているんだ。

最近、男子と女子はなんか仲が悪くなってきている。いや、仲が悪いっていうのじゃない。お互いを意識しすぎて、みんな前みたいに遊んだり、話したりできなくなってきたんだ。

僕もクラスの雰囲気は早めに察知して、昼休みは男友達とプロレスごっこをすることにした。このあいだ不用心な男子の田中が昼休みに女子とばっかり話していて、黒板に「エロ田中」って書かれたから、注意していて良かったって思ったよ。

そんな状況で、もし僕と斉藤さんがペアのタオルを使っているなんてバレた日には、絶対に誰かバカな男子が黒板に相合い傘を描いて、その下に【斉藤麻里 佐々木敏夫】って書いたりして、「アツアツ〜!!」みたいなことを言われるに決まってるんだ。

もちろん僕は斉藤さんと本当に「アツアツ」になれたら、うれしくて飛び上がってしまうのだけど、もちろん斉藤さんはそんなことこれっぽっちも思ってなくて、そんな男子の落書きを見て、泣き出しちゃったりして、「私が佐々木くんのことを好きなわけないじゃない」とか言い出しちゃったりして、そして委員長でイケメンの渡辺が「大丈夫?」とか言って斉藤さんに優しくして、そして斉藤さんが「うん、大丈夫。渡辺くん、優しいね」とか言ったりするんだ。

くそ〜!渡辺の奴!イケメンで頭が良くて優しいからって調子に乗るな!

 

―斉藤麻里の話―

ママたち、ほんと困るなあ…。もちろん私は佐々木くんのこと、大好き。でもこんなペアのタオル、佐々木くんは迷惑に決まってるじゃない!

だってどう考えても佐々木くんは私のことなんて好きじゃないはず。昔、教室でちょっと話してくれたことがあって、もうすごくすごくうれしくて、「今日は佐々木くんと30秒もしゃべれた〜!そうか、佐々木くんは最近、星が好きなんだ。じゃあ私も星のこと詳しくなろう。そしてまた佐々木くんに話しかけて、星の話をしよう!」なんて思ってたんだけど、佐々木くん、急に冷たくなっちゃったし。

たぶん、私のこと、嫌いなんだろうなあ。悲しいなあ。あ、違う。そうじゃなくて、美人な井上さんのことが好きになったのかもしれない。そういえばこの前、井上さんと話しているの見かけたもんなあ。私と話してるところを井上さんに見られて、勘違いされたら嫌だから、私には冷たくなったのかもしれない。

気を遣って距離をとっていたのに…ママが「そのタオル、ちゃんと学校に持って行きなさい」って言うから、一応学校で使ってみて、佐々木くんの反応を見てみようかなと思ってたの。

そしたら、委員長の渡辺くんが一番最初にタオルに気がついて…

「うん、これ良いタオルなの。ママが買ってきてくれて。え?渡辺くんもこれと同じタオル、欲しいの?…うん、たぶんまだ売ってるんじゃないかな。ママに聞いておこうか?」

そんなことを話してたら、突然、大好きな佐々木くんが割り込んできた。

「僕も偶然同じの持ってるから、渡辺にやるよ。ふたりはお似合いだよ」って、鞄から私とペアのタオルを取り出して、委員長の渡辺くんにあげちゃったってわけ。

ああ、私の恋も終わっちゃった。やっぱり佐々木くん、私と同じタオルなんて持ちたくなかったんだ。

 

―佐々木敏夫の話―

渡辺、お前は僕の大好きな斉藤さんとうまくやっていけると思うよ。お前は優しいしイケメンだし、お似合いだよ。幸せになってくれ。そして僕の恋は終わりだ。

僕たちは違う中学に入って、まったく会わなくなってしまった。

そして25歳の秋、僕がカフェでPCを開いていたときのこと。横を通り過ぎた女性が誰かにぶつかって、僕のシャツの肩に少しコーヒーをかけてしまった。

その女性は鞄からタオルを取り出して、「ごめんなさい!」と謝りながらシャツを拭き始めた。そのタオルには見覚えがあり、女性の顔を見たら、大人になってもっと魅力的になった斉藤さんだった。

斉藤さんは僕の顔を見て、すごく驚いている。

僕は、言った。

「あの、斉藤さん、お久しぶりです。もし良ければ、隣に座りませんか?そしてそのタオルの話をしませんか?」

 

―斉藤麻里の話―

えぇっ、佐々木くんだ!

前よりも、もっともっとカッコ良くなってる…って私、佐々木くんとの思い出があるからこのタオル大切にしてて、古くなってもずっと同じブランドのを買い続けてるの!もしかして佐々木くん、このタオルのこと覚えてるのかな…?

この勢いで、佐々木くんに好きだったこと、伝えちゃおうかな。その勢いで、カッコ良くなった佐々木くんと何かあったらいいのに。

「え?そうだったの?佐々木くんもこれと同じ柄のタオル、買い続けてたの?え?佐々木くんも私のこと、好きだったの?え?嘘!」

林伸次さん

bar bossaバーテンダー

林伸次さん

1969年徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷にbar bossaをオープンする。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSをオープン。選曲CD、CD ライナー執筆多数。『カフェ&レストラン』(旭屋出版)、『cakes』で、連載中。著書『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか』(DU BOOKS)、『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)。韓国人ジノンさんとのブログ
林さんのTwitter(@bar_bossa )。

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