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2019/03/11

bar bossa林さんの連載小説『タオル越しの、あの人 vol.6』

bar bossa林さんの連載小説『タオル越しの、あの人 vol.6』

東京・奥渋谷に佇むbar bossa。店主の林伸次さんは、カウンター越しにたくさんのお客さまの人生を見てきました。

泣いたり、安心したり、汗をかいたり、眠ったり…生きているといろんな瞬間が訪れます。ちょっと目を向けてほしいのが、どの場面にもひっそりと、柔らかいタオルがあるということ。タオルは大切な瞬間、あなたの傍らにいるんです。

そんな『タオル越しの、あの人』の物語を、林さんが書き下ろします。今回は、高校の卒業式で繰り広げられる甘酸っぱいお話。

 

*****

 

僕たちが通った高校には、「卒業するとき、部活で使ったタオルを好きな人に贈る」という習慣がある。

誰が始めたのか、起源はわかっていないのだけど、制服は学ランではなくブレザーだから「第2ボタンを渡す」慣習がなくて、その代わり部活で使ったタオルを渡し始めたのでは…というのが定説だ。

最初は、女子生徒が運動部の男子生徒に「タオルください!」と告白するのが通例だったらしい。でもいまは、仲良しだった友人と交換する生徒も多いし、お世話になった先生に贈る子もいる。そして部活をやっていない生徒も、「卒業タオルを贈る」儀式に参加するために、1年生のときにタオルを購入するのだ。

もちろんみんなは、僕が最愛なる高橋祐子さんとタオルを交換するのを当然だと思っているだろう。何しろ僕と高橋さんは1年のころからずっと付き合っていて、生徒も先生も親も、みんな公認の仲なのだから。

僕は高校を卒業したら工場で働く。そして高橋さんは大学進学が決まっている。違う道を歩み出すと恋愛関係が崩れてしまうのはよくあることらしく、僕はいまから、すごく不安だ。

 

***

 

「中川くん、タオルのことだけどさ、これ、お互いの親に贈るってどうかな?」

「え…?僕は交換しないと、不安だけど…」

「私たちってその程度の間柄だっけ?タオルを交換しないくらいで、別れるような仲だっけ?それに、中川くんのお母さん、タオルをもらったら喜ぶと思うよ!」

両親は僕が小さいころに離婚していて、お母さんは女手ひとつで僕を育ててくれた。「お父さんがいない、かわいそうな子」とまわりから思われていたかもしれないけど、僕自身はぜんぜん、かわいそうなんかじゃないって思っている。

たしかにお母さん、タオルをあげたら喜びそうだ。それに、僕と高橋さんはタオルを交換しないくらいで別れる関係じゃない。

高橋さんと「手紙を添えてタオルを贈ろう。いままで言えなかったことを書いてみよう」って話し合った。

 

***

 

そして僕たちは卒業式の日に、お互いの手紙を見せ合うことにした。僕がお母さんに書いた手紙はこんな感じだ。

 

お母さん

いつもお疲れさま。僕の高校では卒業式のときに、大切な人にタオルを贈るのは知ってるよね?このタオル、お母さんにプレゼントしたらどうかって高橋さんが提案してくれたんだ。高橋さん、本当に良い子だよね。

お母さん、僕が小学校3年生のとき、「父の日のためにお父さんの絵を描く」授業で、お母さんの顔に髭を生やしてネクタイを巻いたんだよね。お母さん、あの絵を見て泣いてたけど、あれは、僕にとってお母さんはお父さんでもあるって表現したかったんだ。わかってくれてたかな?

お母さん、僕にお父さんがいないこと、いつも気にしていたけど、僕はお母さんがお父さんも兼任してくれていると思ってます。お父さんが欲しいなんて一度も思ったことないよ。

春から就職です。最初のお給料で、何かおいしいものをご馳走させてください。あと、もし、お母さんに好きな男性がいたら僕のことは気にしないで付き合ってくださいね。人と人が愛し合うって素敵なことなんだなって、僕は高橋さんと付き合ってわかりました。

 貴志

 

高橋さんが書いた手紙はこんな感じだ。

 

お父さんお母さん 

うちの高校の伝統で、大好きな人に部活で3年間使ったタオルを贈ることになってるのは知ってるよね。私は、お父さんとお母さんに、このタオルを贈ります。高校3年間、お世話になりました。

1年生のとき、私が学校を休みがちだったの覚えているよね。あれ、実は私、クラスでちょっとイジメにあっていたんだ。でも中川くんが学級会で突然手を挙げて、『いま、このクラスでイジメが起きてます。僕はその彼女のことが大好きなので、どうやったら彼女を助けられるか、どうしたらこのイジメがなくなるのか、いろいろと考えました。でもやっぱりわかりません。僕は彼女を守れないこの無力さがつらいです。お願いです。彼女をそっとしておいてください』って泣きながら言ってくれたんだ。

クラスのみんなは、おもいっきり中川くんのことを冷やかすのかなって思ったんだけど、中川くん、男子に人気があって友達がいっぱいいるから、男子がみんな拍手し始めたの。それで女子たちも一緒に拍手してくれて、私のイジメはなくなったんだよ。そのあと、中川くんとお付き合いを始めました。

そう、私は、この高校3年間でいろんなことを学んだけど、誰かを愛し、その人に愛されるっていうことのすばらしさも学びました。そしてこのタオルには私の3年間のうれし涙がたくさん染み込んでいます。お父さんとお母さんもいつまでも幸せにね。それでは今後ともよろしくお願いいたします。

祐子

 

***

 

卒業式は終わり、僕たちは手をつないで校門まで歩いた。

みんながあちこちでタオルを渡して、そのタオルでうれし涙を拭いている。誰かにモノを贈るって、言葉を贈るって良いな。誰かを好きで、そしてその人も自分のことを好きだなんて、奇跡みたいな幸せだな。

 

これまでの『タオル越しの、あの人』は、コチラ

林伸次さん

bar bossaバーテンダー

林伸次さん

1969年徳島県生まれ。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷にbar bossaをオープンする。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSをオープン。選曲CD、CD ライナー執筆多数。『カフェ&レストラン』(旭屋出版)、『cakes』で、連載中。著書『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか』(DU BOOKS)、『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)。韓国人ジノンさんとのブログ
林さんのTwitter(@bar_bossa )。

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